笙は、日本の伝統音楽である「雅楽」の中で用いられる楽器です。その姿は鳳凰にたとえられ、その響きも鳳凰の鳴き声を模して創られた、と伝えられています。また、古代中国の文献である「説文解字」「白虎通義」「釈名」などを見ると、笙は万物が生起してくる時の響きだと考えられていたようです。
笙の起源は、一説に現在の中国西南部や、東南アジアのあたりだと考えられています。中国の創世の女神である女媧が創ったとも伝えられていますが、その女媧という女神のルーツはタイのミャオ族にあるとも言われており、ミャオ族は笙の原型とも言えるような楽器である「蘆笙」を演奏します。同じように笙の同族の楽器はラオスのケーンなど、その辺りの国々に今も広く分布しています。現在日本に伝えられる笙は、古代中国で形や音律が整えられ、1400~1300年前に他の雅楽の楽器たちと共に日本に伝えられました。東大寺の正倉院にも笙が宝物として納められていますが、現在に伝えられている笙とほぼ変わらない美しい姿を保っています。
笙は、古代中国で生まれた音律の算出法である「三分損益法」と深い関わりがあります。かつて中国の神話の皇帝、黄帝は、楽人である伶倫に命じて音律を定めました。伶倫は崑崙山で鳳凰の鳴き声から12の音律を聴き分け、竹管を切って音律を定めました。このお話が、中国の音律と、三分損益法の起源として伝えられています。古代中国において、音律と、音楽は世界の法則と秩序を司るとても重要なものでした。その思想が、今の日本の笙にも受け継がれていると考えられています。
現在の日本の笙は、17本の竹が束ねられ、そのうち2本を除く15本の竹の根元に金属製のリード「簧」が取り付けられており、息を吹き入れたり吸ったりすることで簧が振動し、音が鳴ります。いわゆるフリーリードなので、吹いても吸っても同じ音高が出ます。簧の差し込まれているお椀のような「頭(かしら)」の部分に息の湿気がたまりやすいので、結露を防ぐために演奏の前には必ず火鉢や電熱器で楽器を暖めてから演奏します。
雅楽の合奏では「合竹」と呼ばれる笙独特の和音のようなものを奏し、演奏全体に流れを生み、包み込むような演奏をします。笙で独奏できる古典曲は現在6曲しか伝えられていませんが、現代ではたくさんの笙のための独奏曲が書かれており、笙による新たな表現が広がりを見せてきています。