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「声」との出会い

19歳の春に四国八十八ヶ所を歩いて巡礼した。45日間かけて、一度で歩き通した。自分がもう一度「ゼロ」に戻ることのできた貴重な経験だった。それと同時に、自分のその後の関心の道筋も、その時に形作られていたように思う。

四国遍路を終え、さあこれから何をはじめよう・・・と考えていたときに、たまたま実家の本棚に差さっていた田口ランディ氏のエッセイ集を手に取った。「できればムカつかずに生きたい」はじめ、高校生の頃はよく田口氏のエッセイ等を読んでいたが、そのエッセイ集を読むのは初めてだった。

そこに、田口氏がヴォイスヒーラーの渡邊満喜子氏のワークショップを初めて体験した様子が書かれたものがあり、「へえこういう人もいるんだな・・・」と思ったのがきっかけで、一ヵ月後にはとんとん拍子で渡邊氏のワークショップに参加することとなった。

その後、彼女が主催する即興のヴォイスパフォーマンスグループ「Ama voices」に加入し、その後何年間か、彼女の元で「声」に関する研鑽を積むことになった。

「ヴォイスヒーリング」がいかなるものか・・・渡邊氏によれば「人は誰でも世界でたったひとつの自分だけの美しい声をもっており、その声を乗り物として、発声のレッスンを重ねて行くと、より精妙な波動を音声化することにより、より深い自分と共鳴する感覚を取り戻す」ことが出来るものだ。声を通じて本来の自分に立ち戻るための技法、といったところだろうか。

春秋社から出ている著書を読んでいただくとよくわかるが、渡邊さんは元々編集業、文筆業に携わっていたが、人生の危機から蘇生していく過程で自身を癒す「声」を、そして人を癒す「声」を得て、導かれるままにヒーラーとなった現代の「シャーマン」のような方だった。

彼女のもとで歌い、様々な人と出会い、経験を積む中で中心にあったのは「身体」というテーマだった。かつて自分が四国の土地、自然、人々のあいだを自身の身体を通して歩きとおすことでもう一度生きなおす力を得たように、現代社会において見落とされ、失われつつある身体の文化を取り戻すことが、現代人の生きづらさに対するひとつの答えをもたらしてくれるのではないか、ということを考え始めていた。

私は自分の心身の在りようが、現代の社会と切り離されて存在しているのではない、と考えている(あたりまえのことだけれど)。自分の心身の在りようをよくよく観察してみれば、現代の社会の在りようが見えてくるし、その逆もある。

そのような、「身体」という視点を通してみえてくる世界のことをもっと知りたくなり、野口整体や、ヨガ、武術、オイリュトミー、その他体を動かすことを色々やってみたり、よりプリミティブな音の世界を知りたくて、オーストラリアの先住民であるアボリジニの楽器であるディジュリドゥを演奏したり、世界の様々な民族音楽の世界を渉猟したりもした。ホーメイをやってみたり、仏教音楽の声明も先生について習っていた。実際、大学の卒業論文は声明と身体をテーマに書き上げた。

「身体」というテーマについて少し書いてみたけれど、自分はやはり音楽が好きだったから、「声」や「響き」の世界に導かれたのだろう。もともと小学生の頃フォルクローレが好きで、クラシックギターを長くやっていたし、その後ビートルズにドはまりし、中高はエレキを弾き、バンドでボーカルをやったりしていた。ほんとうは、バンドでメジャーデビューすることが夢だったのだ。